2016年4月19日火曜日

<25 plus 9>薬はなぜこんなに高い がん治療剤「オプジーボ100mg」1瓶 73万円

◇超高価薬 中医協でも議論に~「イノベーションの衝撃」!


  高価薬が中医協で大きな議論となっています。国民医療費が13年に40兆円を超えたことを政府が大きく公表しました。その増加する医療費のうち薬剤費の割合が30%に迫ろうとしています。

  このことを背景に、昨年12月に肺がんへの効果が加わった「オプジーボ」について、今月の財務省の審議会で「肺がん患者約5万人に1年間使うと、医療費が最大1兆7500億円増える」という試算が公表されました。当然ながら中医協でもこのことが議論となり、医師ら診療側委員は「衝撃的な数字だ」と驚きを隠しませんでした。



  この時の中医協では、高脂血症の注射薬「レパーサ」の保険適用を承認しました。注射1回分で2万2948円です。昨年にはC型肝炎の新薬「ソバルディ」「ハーボニー」が発売され、保険適用時の価格はそれぞれ1錠約6万円と約8万円。健康保険組合など支払い側委員は「昨秋以降の調剤費は異様な伸びだ。C型肝炎薬が影響している」と指摘しました(共同通信2016/04/14)。

  国民医療費の膨張は、これまでも高齢化を背景にした増加がとくに強調されていましたが、医療費を直接押し上げているのは高価薬と高度な医療機器であることは指摘されていました。つまり、アベ政治の好きな「イノベーション(技術革新)」の「経済成長」です。製薬会社や医療機器製造会社のそれです。アベ政治では医療産業を成長産業として位置づけ、一方で患者の願いを逆手にとりながら、「保険医療制度の維持のために」一つの医療行為で自由料金と保険診療を認める「混合診療」を推進しています。

  しかし、混合診療は政治課題も多く、批判も多いために簡単にはいきませんので、製薬会社などの利益を優先させ薬価収載に踏み切っているように思われます。

  このような薬剤で効果が同じような薬剤ががない場合の価格は、材料や開発コストなどの原価の他に人件費や利益を上乗せして決められるようですので、利益の上乗せを考えれば「乗せ放題」は否定できません。

  ところが最近に多い薬剤の高額化、あまりにも高額のために、厚労省幹部の一人は、「イノベーション(技術革新)の衝撃」と表現したそうです。これでは「公的医療保険制度」の医療費削減の軟着陸は不可能となり、それでやっと「高価薬」が政府の諮問機関でも議論になったということでしょう。

  患者にとっては、高額治療薬の保険適用や「高額療養費制度」は最終的負担金は1~3割になりますから、願ってもない制度には違いありませんが(それでも支払い能力のある一部の人たちですが)、こうしたことが進行すれば受診格差=差別診療は拡大するとともに公的医療保険制度の維持は困難になります。

 したがって、無差別平等の公的保険医療制度の確立を前提に、安全が確保された治療薬の保険適用は当然ですが、高価薬の民主的規制も当然だと思います。世のため人のためのイノベーションは「ノーベル賞もの」です。もう一つは経済格差是正、99%の人々のための税制と産業構造の転換こそが求められていると思います。

 そして、「日本の薬は安い」という常識は覆され、外資系企業がこうした動きに着目し、日本市場への参入を狙っています。また、注意しなければならないのが国会審議が始まったTPPです。TPPはこうしていっそう差別医療を拡大と公的医療保険の解体を進めて行くに違いありません。

 この超高価薬「オプジーポ」、皮膚がん(悪性黒色腫)に加え「肺がん」に保険適用になり・・・・・「免疫チェックポイント阻害剤(抗PD-1抗体)」の治療が始まっています。

 これに対し、「日本肺がん学会」は昨年12月18日、使用上の注意について患者宛に「オプジーボについてのお願い文書」を発表しています。

  →「抗PD-1抗体ニボルマブ(商品名:オプジーボ)についてのお願い」

  私は技術者ではありませんので、とくに気になることはアベノミクスとの関係での経済的な問題です。もちろん、肺がん治療薬「アレッサ」問題もありますので、TPPによって外資企業の「安全が保障されていない」医薬品が大量に出回るリスクに、無頓着ではいられません。

(以下、参考・引用資料)

▷(核心評論)技術革新が保険財政脅かす 費用対効果の評価は不可避 超高額薬剤


(その他)  2016年4月15日 (金) 配信:共同通信社(出所:m3.com)

  「イノベーション(技術革新)の衝撃」と、厚生労働省幹部の一人は表現した。治療効果が高い半面、価格も極めて高い薬剤が増えている。患者には福音だが、医療保険財政を脅かす存在になりつつある。

  代表格は日本発の新薬「オプジーボ」だろう。免疫チェックポイント阻害剤と呼ばれる新しいタイプの抗がん剤で、2014年に皮膚がん(悪性黒色腫)、昨年には肺がんに保険適用となった。全ての患者に効くわけではないが、効き目のある人には延命効果が著しいと報告されている。今後、他の種類のがんにも保険適用が広がりそうだとの観測もある。

  問題はその価格だ。100ミリグラム1瓶で約73万円。患者1人の治療にかかる医療費は年3500万円に上る。国民皆保険の日本には高額療養費制度があるため、患者の自己負担は月8万円強(標準的な所得の場合)で済む。とはいえ残る費用は保険財政で賄うのだから、保険料や税金の形で国民全体の負担に跳ね返る。

  同様の図式は、昨年登場した米国製のC型肝炎治療薬「ソバルディ」「ハーボニー」にも言える。高い治癒率で知られるが医療費は12週間服用で400万円程度かかる。

  13年度に40兆円を超えた国民医療費のうち、薬剤費が占める比率は近年20%強で推移。国民1人当たりの薬剤費は、既に米国やドイツに次ぐ高い水準だ。イノベーションがもたらす恩恵は歓迎すべきだが、負の影響が大きすぎて財政がパンクしては元も子もない。

  厚労省は本年度から薬価の決定に「費用対効果」の考え方を試行的に導入する。支払ったお金に見合うだけの治療効果があったかどうかを評価し、割高だと判断されれば薬価を下げる仕組みだ。

  実際の薬価見直しに使うのは18年度以降だが、厚労省は今月中にも見直し候補となる薬剤を数種類選んでメーカーにデータ提出を求め、費用対効果の分析を始める。前述したオプジーボ、ソバルディ、ハーボニーや、乳がん治療薬「カドサイラ」などが分析対象として"当確"のようだ。

  新薬メーカーの開発意欲をそいではいけないが、少子高齢化を受け安泰とは言い難い保険財政を考えれば、費用対効果を反映した薬価決定は不可避だろう。英国をはじめ欧州やオセアニア、アジア各国も導入している。

  その際に気を付けたいのは、患者の視点をないがしろにしないことだ。がん患者の集まりで「抗がん剤が高すぎると批判されるが、私たちは無駄遣いをしているのではない」という訴えを聞いたことがある。

  どんなに高額の薬剤であっても必要とする人はいる。患者が後ろめたさを感じながら治療に臨むような社会はどこかおかしい。患者の利益を守りつつ、保険財政と新薬開発コストとのバランスをどう取るか。国民的な議論が急務となる。

 (共同通信編集委員 内田泰)

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