2015年7月11日土曜日

・アベ政権の骨太方針と社会保障のゆくえ

 アベ政権は六月三〇日夕、臨時閣議で経済財政運営の基本方針(骨太の方針)と成長戦略、規制改革実施計画をそれぞれ決定しました。

(図)日本経済新聞15/07/01

◇社会保障費の削減が最大のターゲット

 日本の国の財政における借金(債務残高)は1053兆円(国民一人当たり830万円 3月末)。財務省のホームページ・「債務残高の国際比較」によれば、GDP比で233.8%とイタリアの149.2%を大幅に上回り、主要先進七か国(日・米・英・独・仏・伊・加)の間でも突出してトップで、この限りでいつ破綻してもおかしくない状態です。

 こうした歴代自民党政権によってつくられた無責任財政の現状を改革し、「財政健全化」目標(基礎的財政収支の黒字化)を2020年度に達成するための「経済・財政再生計画」を盛り込んだのが「骨太方針」といわれるものです。 

 しかし、この内容は、まず消費増税10%、「その円滑な実施」の他、社会保障費を最大のターゲットとしてその徹底的な削減を目指したものです。

 国民生活を犠牲にした「財政健全化」などあり得ません。一方では、法人税の限りない減税、原発再稼働の推進、そして軍事費の拡大には惜しみなく税金を使い、大企業の収益を増やす方針となっています。

◇消費増税10%を確実に実行し、法人税は限りなく引き下げ

 骨太の方針は、16~18年度を「集中改革期間」に指定しいます。この3年間で社会保障費の自然増を1兆5千億円に抑える「姿勢」を明記しました。「目安」として具体的な削減額は明記できなかったのですが、3年間で9千億~1兆5千億円、1年当たり3千億~5千億円も削るもので、小泉純一郎政権の年2200億円削減を大きく上回る社会保障費切り捨てとなりますからその規模の大きさが想像できます。
(図)日本経済新聞2015/07/01

 「目安」として削減額には幅を持たせた意味は、数値目標を立てて達成できなかったことを考え、その批判を避けため、すなわち「長期政権」を狙ったものと言われています。

 消費税増税10%は「経済環境を整え」て17年4月に「円滑に実施」し、国の歳出全体については3年間で1兆6千億円の伸びを「目安」とし、経済・物価状況に応じて歳出を拡大する。法人税減税ついては「早期に完了する」と強調し、新成長戦略には、16年度に法人税の「引き下げ幅のさらなる上乗せ」を図るとしています。

(表)日本経済新聞2015/07/01
◇高齢化社会と社会保障


(図)将来推計人口でみる50年後の日本/平成24年版高齢社会白書(全体版) - 内閣府(HP)

<2.5人に1人が65歳以上、4人に1人が75歳以上>

 「高齢者人口は今後、いわゆる「団塊の世代」(1947~1949年に生まれた人)が65歳以上となる2015年には3,395万人となり、「団塊の世代」が75歳以上となる2025年には3,657万人に達すると見込まれています。その後も高齢者人口は増加を続け、2042年に3,878万人でピークを迎え、その後は減少に転じる」(内閣府「将来推計人口でみる50年後の日本/平成24年版高齢社会白書(全体版)」)と推計されています。

 これは団塊ジュニア世代の高齢化などを含んで2042年までの27年間は、必然的に高齢化に伴う医療費が増え続けるということであり、逆に言えばこの団塊世代が75歳以上になる2025年までにその後に至っても「維持できる社会保障制度」に「改革」すれば何とかなるということにほかなりません。

<社会保障費削減が生みだしたもの>

 メディアも含めて、こうした立場を主張する人びとは「税制一体改革」→「社会保障改革」→「社会保障費をもっと削れ」といってるわけですが、これまでもこうした施策にさまざまな社会的要因が絡まり、生活保護受給世帯の増加にとどまらず、子どもの無国籍者という究極の結果をはじめ、新幹線車両での焼身自殺のように、行どころがなくなった高齢者の孤独死や自殺などなど社会問題や罪深い矛盾を増加させてきました。

 世界的にもギリシャ危機という巨大な経済圏域を揺るがすようなことも起きています。ギリシャ国民は「消費増税・社会保障費削減」などのEUから押し付けられる「緊縮策」にがマンができなくなり、

「国民投票で欧州連合(EU)の緊縮政策に「ノー」を突きつけた。チプラス政権はEUとの再交渉をめざすが、この危険な賭けでギリシャはさらなるいばらの道を歩むことになる。ギリシャ債務危機は日本に大きな教訓を与えている」。・・・・・・・日本経済新聞の「大機小機」(07/07付)にこんな文句ではじまる投稿がありました。

 ・・・・・もう少し続けましょう。・・・・・・

 「日本の財政はギリシャより深刻な状況にある。長期債務残高の国内総生産(GDP)比はギリシャがユーロ圏最悪の1.8倍なのに対して、日本は先進国最悪の2倍超である。ギリシャは基礎的財政収支の黒字化を実現しているのに対し、日本は2020年度の黒字化すら危ぶまれている」。

 「日本には少子高齢化による「2025年問題」が横たわる。この年を境に団塊の世代が75歳以上になる。貯蓄率は低下し、個人金融資産は減少し、債務を国内では賄えなくなる。財政への信認が揺らげば資金逃避が起き、悪い円安につながる。金利上昇が財政をさらに圧迫する。
 しかし、安倍晋三政権は社会保障制度改革を柱とする財政再建に真剣に取り組もうとはしていない」。
 「ギリシャ危機は対岸の火事ではない」。

 (投稿者=無垢)・・・・・・というのです。

 このように書くと、まるであたかも「社会保障費削減の行方はギリシャ」と思われてしまいそうですが、この投稿をした人は「社会保障費を徹底して削らないとギリシャになる」という立場の人です。

 日本でほんとうにそうなのでしょうか。
 私は真逆の立場ですからこの文脈のままでいいと思います。高齢者が増え、医療・介護費をはじめ社会保障費が増加するのは必然で、年金機構の情報漏えいなどをみれば一定の効率化は必要ですが、増加は仕方ないという面があるはずです。

 それを前提にした税制改革が必要です。このままでは「経済格差」はますます拡大しますので消費増税・法人減税は逆さまです。

 ギリシャ危機でフランスのトマ・ピケティ教授ら著名経済学者たちが、ドイツのメルケル首相に対する公開書簡で、財政問題を抱えるギリシャにドイツなどの主導で課している緊縮策を見直すよう求めています。

 ピケティ教授らは、EU側の要求は、ギリシャで「大量失業と金融システムの崩壊を招き、債務危機を深刻化させた」と分析。税収が激減し、企業は資本が不足、若者の失業率は50%近くに上ると指摘し、緊縮策は「1929~33年の大恐慌以来見なかったような影響をもたらしている」として、現状は「ギリシャ政府に対し、自らこめかみに拳銃を突きつけて、発砲するように求めているようなものだ」とメルケルドイツ首相らの政策を批判しました。(以上、日本経済新聞7月9日)

◇財政再建と経済成長の二兎を追う~二兎を追うものは一兎も得ず

骨太の方針決定 財政再建、成長重視で  歳出抑制「目安」どまり、18年度赤字幅GDPの1%に
(日本経済新聞 2015/07/01)
  アベ政権はこれで「財政再建&経済成長」の二兎を追うのだそうですが、ふりかえってみれば20世紀から21世紀への転換期、世界の先進国が同様に「歴史の峠」に訪れる財政危機に悩まされました。

 その大不況の下で、「景気回復と財政再建」政策に関連した三つの政策パターンとして、景気回復の一兎しか追わなかった日本、財政再建の一兎しか追わかったドイツ・フランス、両方の二兎を追ったスウェーデンがあったとする、「二兎を得る経済学 景気回復と財政再建」(神野直彦著、2001年、講談社。当時東京都税制調査会会長で東大大学院経済学研究科教授)にとても興味深いことが分析され、提起されています。

 しかし、今回のアベ政権の「財政再建と経済成長の二兎を追う骨太方針と成長戦略」とは残念ながらスケールの差を感じざるを得ません。「景気回復」ではなく成長戦略ですからこの言い回しからすればすでに景気回復の過程は終わったということでしょうか。

*以下引用  -----------

 とりもなおさず、景気回復という一兎しか追わなかった日本は、財政破綻はもちろん、景気回復も破綻し、何も結果を残せなかった。それは企業の国際競争力強化を最優先政策課題として企業の租税負担を低めることに全力を傾けたこと。日本は一貫して企業の租税負担あるいは社会保障負担の軽減を追求したことにある。

 少なくとも財政再建という一兎を得た国はドイツとフランス。しかし、この二つの国も社会保障改革ではゼネストを含む労働組合と国民の激しい抵抗にあい政情不安定の状況に至ってしまい、一兎しか追わなかった代償は大きく、失業率は悪化してしまう。二つの国とも政権交代という政治的代償も払うことになる。

 二兎を追って二兎とも手に入れたスウェーデンはスウェーデンモデルを復権させたこと、スウェーデンは福祉国家であり、所得再配分国家なのである。政治システムが社会保険と生活保護の社会的セーフティネットとともに新しい産業構造の前提条件を整備する社会的インフラストラクチュアを整備する。この時に必要になってくるのが新たな租税負担であり、国民が「共同の困難」としてどう財政再建に取り組むのか、それを国民に提起しなければならない。

 紆余曲折の政権交代をして、1994年に政権復帰した社民労働党は「ストロング・ウェルフェア(強い福祉)」のために「ストロング・ファイナンス(強い財政)」を築こうを合言葉に国民に説明したのである。こうして、たとえば1995年に高額所得者の所得税税率を20%から25%に引き上げる。

 日本ではこうした経費削減と増税は必ず不況を深刻化させるという批判が巻き起こるが、スウェーデンではこうした財政再建に取り組み、景気回復のために経費の中身を大きく転換させたのである。

 消費税で財政再建はできるか。
 「二兎を追う」とは二つのネット(前記)を財政を通じて張るために、財政再建を達成しなければならないということを意味する。

 現在の長期不況のもとで、増税はいっそう不況を深刻化させる。しかも、仮に景気が回復しても、気の遠くなるような消費増税を実施しなければならない。

 不況の下では税収は減少し、景気が良くなれば逆に法人税や所得税では税収は高い累進税率によって自動的に増税となり自然増収となる。

 不況の下で減税するのであれば、消費税を減税し、消費需要を増加させつつ、回復に向けた増税基調の改革をすべきである。ところが愚かにも、日本はまったく逆の税制改革を実施してしまった。つまり不況の下では自動的に減税となる所得税や法人税を、大幅に減税してしまったのである。

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 この著書に書かれたこれらの出来事は20年以上も前の話しであり、現在までの空間がいわゆる「失われた20年」になるわけです。財政再建も景気回復にも失敗した自民党政権。しかし、アベ政権はこの20年の総括もなく、社会的セーフティネットと社会的インフラストレクチュアのつのネットの整備どころか、財界からの支援に支えられ社会的セーフティネットを破壊することのみに全力をあげる構えです。これでこ国民に我慢と増税を、と言われてもとても容認できるものではありません。

(資料:骨太方針と成長戦略)

◆成長戦略・骨太の方針(要旨)
(行政・政治) 2015年7月1日(水) 配信:朝日新聞(出所:m3.com)

 ▽成長戦略(要旨)

【総論】

・日本経済は、かつての強さを取り戻しつつある。
・しかし人口減社会の到来によって、消費だけが拡大しても経済全体の生産性が拡大しなければ、成長の限界にぶつかってしまう。
・アベノミクスは需要不足の解消に重きを置いてきたステージから、供給制約の対策を講ずる新たな「第二ステージ」に入った。

【日本産業再興プラン】

・コーポレートガバナンスを強化する。
・サービス産業の労働生産性の伸び率を、2020年までに2・0%とする。
・ベンチャー支援人材を選抜し、今年秋ごろに米シリコンバレーに派遣する。
・ベンチャー関連施策の工程表となる「ベンチャー・チャレンジ2020」を今年末までに策定する。
・IoT、ビッグデータ、人工知能の技術革新を踏まえた課題解決を進める「CPS推進協議会(仮称)」を年内に創設する。
・小型無人機について、国家戦略特区を活用した近未来技術実証を行うための制度改革を検討する。
・朝型勤務などを推進する「夏の生活スタイル変革(ゆう活)」を今夏から国民運動として展開する。
・自分が身につけるべき知識や能力などを確認する「セルフ・キャリアドック(仮称)」を整備する。
・実践的な職業教育を行う新たな高等教育機関を制度化し、19年度に開学する。
・17年度末までに46・3万人の保育所勤務保育士を確保する。
・女性が輝く上で避けて通れないトイレの質の向上に向けた機運を醸成する。
・20年に、外国人IT人材を6万人に倍増する。
・「特定研究大学(仮称)」、「卓越大学院(仮称)」制度を創設する。
・「サイバーセキュリティ経営ガイドライン」を今年度中に策定する。
・マイナンバーの利活用範囲を戸籍やパスポート、証券分野などへ拡大する。
・現在進めている法人税改革を早期に完了する。

【戦略市場創造プラン】

・全国の400床以上の一般病院で、電子カルテの普及率を90%に引き上げる。
・ヘルスケアビジネスを加速化させるプログラム提供や人材供給を整備する。
・遊休農地への課税の強化などの仕組みを検討する。
・20年の農林水産物・食品の輸出額1兆円目標を前倒しして実現する。
・外国人観光客による旅行消費額4兆円を目指す。

【国際展開戦略】

・アジア開発銀行と連携し、今後5年間で約1100億ドルの「質の高いインフラ投資」を行う。

 ▽骨太の方針(要旨)

【現下の日本経済の課題と基本的方向性】
・我が国経済は、1990年代初頭のバブル崩壊後、およそ四半世紀ぶりの良好な状況を達成しつつある。
・中長期的に、実質GDP成長率2%程度、名目GDP成長率3%程度を上回る経済成長の実現を目指す。
・復興事業は、被災自治体も一定の負担を行う。

【経済の好循環の拡大と中長期の発展に向けた重点課題】

・原子力規制委員会により世界で最も厳しい水準の規制基準に適合すると認められた場合には、その判断を尊重し再稼働を進める。
・女性が働きやすい制度などへの見直しに向けて具体化・検討を進める。
・増加する空き家への対応も含め、東京圏の医療介護・住まいの整備について取り組みを進め、地方への移住を希望する人を支援する。

【「経済・財政一体改革」の取り組み――「経済・財政再生計画」】

・「経済再生なくして財政健全化なし」が、安倍内閣の基本哲学。
・低所得若年層・子育て世代の活力維持と格差の固定化防止のための見直し、働き方・稼ぎ方への中立性・公平性の確保、世代間・世代内の公平の確保など、税制の構造的な見直しをできるだけ早期に行う。
・中間時点(18年度)で、目標に向けた進捗(しんちょく)状況を評価する。18年度の国と地方を合わせた基礎的財政収支の赤字は対GDP比1%程度を目安とする。
・国の一般歳出は安倍内閣のこれまでの取り組みを基調として、社会保障の高齢化による増加分を除き、人口減少や賃金・物価動向などを踏まえつつ、増加を前提とせず歳出改革に取り組む。
・17年4月の消費税率10%への引き上げに向け、その円滑な実施に必要となる経済環境を整えるため、必要に応じ機動的に対応する。
・20年度に向けて、社会保障関係費の伸びを、高齢化による増加分と消費税率引き上げとあわせて行う充実分などに相当する水準におさめることを目指す。
・都道府県別の1人あたり医療費の差を半減させることを目指す。
・後発医薬品にかかわる数量シェアの目標値は、17年央に70%以上とするとともに、18年度から20年度末までの間のなるべく早い時期に80%以上とする。
・21年度までをめどに、国において政府情報システムのクラウド化と運用コスト低減(3割減)を目指す。

【16年度予算編成に向けた基本的考え方】

・専門調査会において改革の進捗(しんちょく)状況を適切に管理、点検、評価する。

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