そこで昨年の診療報酬改定を少々ふりかえり、在宅医療への一抹の不安を感じながらも、新たな形の診療所で地域包括ケアがどうなるのかその進展に期待をしたいと思います。
14年診療報酬改定では、同一施設などへの訪問診療が極端に引き下げられ、介護施設などでは訪問診療を引き受ける医療機関が少なくなり、医療連携が途切れて大変な事態になったのですが、一方では、新たに機能強化型の在宅療養支援診療所(在支診)であれば算定の条件を満たす、「地域包括診療料」の算定が始まりました。
厚生労働省「平成26年度診療報酬改定の概要」 |
Q.2014年度診療報酬改定後、「訪問診療に係る収入が減った」という設問への解答(中医協資料から作成) |
少なくない医療機関は、診療報酬上のメリットを生かした医療活動で診療報酬引き下げによる減収を補っていることも事実のようですが、果たしてその後在宅医療への取り組みはどのようになってきたのでしょうか。
茨城県医師会は在宅医療について昨年11月、実態調査を実施しました。在宅医療の実施状況や多職種連携の内容など10項目を聞いています。
それによれば、会員医療機関1388のうち、535機関が回答し(回答率38・54%だった)。往診も含め、「在宅医療を実施している」と回答したのは234機関(44%)で、「実施する意向はある」も32機関(6%)だった。267機関(50%)が「実施する予定はない」と回答しており、在宅医療を行っている医療機関がほかの機関と連携しているか聞いたところ(複数回答)、訪問看護ステーション(159機関)▽ケアマネジャー(118機関)▽拠点病院(99機関)▽薬局(82機関)――と連携していたということです。(毎日新聞2015年4月16日)
なお、同様の調査は静岡市でも行われ、「実施」医療機関は47%でした(静岡新聞7月3日)。
茨城県の医療機関への実態調査では医療機関側はその半数が「実施する予定はない」と答えています。こうした結果は、時の政府によって繰り返され、「梯子を外される」などと批判され、いじくりまわされる「診療報酬改定」によるところが大きいと思われます。
自由記述欄には「在宅医療の大部分は(患者の)家族などの力によることが多い。『在宅医療は自己満足に過ぎない』と思われても仕方ない」などと現行制度や実施態勢の問題点を指摘する意見もあった。同医師会の諸岡信裕副会長は「外来診療で手いっぱいという病院も多いのだろうが、普及に向けて理解を働きかけたい」(前掲、毎日新聞)と話していたとのことです。
「医療設備」をほとんど必要としない「訪問診療専門診療所」。条件の縛りもけっこうでてくるのでしょうから、医師数が一定以上確保できるであろう病院をもつ法人などでは聴診器一本のサテライト診療所など可能性が高いと思われます。
しかし、これは医療費削減のためのイニシャルコストもランニングコストも低い、「安上がり医療」の拡大ですから「動機不純」、診療報酬上で内容も低い水準に抑えられるとすればそれほど現場から理解されるとも思われません。
それに診療報酬の中身に関わりますのでまだ何とも言えませんし、24時間訪問診療にふさわしいコストが保障されるならば別でしょうが、低診療報酬で行くなら開業医では困難でしょうから、病院グループ法人のためのものなのでしょうか。
(以下、参考資料:日本経済新聞)http://www.nikkei.com/article/DGXLASFS09H4Q_Z00C15A7MM8000/?dg=1
◆「訪問専門の診療所を解禁 厚労省、在宅医療後押し
日本経済新聞 2015年7月10日(金)
厚生労働省は来年4月をめどに、医師が高齢者らの自宅を定期的に訪れて診察する「訪問診療」の専門診療所を認める方針だ。外来患者に対応する診察室や医療機器がなくても開設を認める。政府は高齢者が病院ではなく自宅で治療する地域包括ケアを推し進めている。訪問診療に専念する医師を増やし、退院した患者の受け皿をつくる。
訪問診療の患者の8割以上は「要介護」と認定された高齢者だ。外来で病院に行くことが難しい。
訪問診療を広げる背景には、入院ベッド(病床)の不足がある。内閣官房が6月にまとめた推計によると、このまま改革をしないで放置すれば「団塊の世代」が75歳以上となる2025年には約17万床が不足する。
症状が安定した患者は病院でなく、自宅や介護施設で治療を受けやすくする。
入院した患者が自宅での訪問診療に移れば、医療費が減るとの見方もある。政府の試算では訪問診療にかかる自己負担と保険給付を合わせた医療費の総額は1人あたり月に約32万円で、慢性期患者の入院(約53万円)より4割安い。入院するとささいな体調不良でも治療を施すため、医療費が膨らみやすいとの指摘がある。
厚労省は訪問専門の診療所を開く場合に、いくつかの条件を付ける方向だ。施設ごとに担当の地域を決め、住民から依頼があれば訪問することを義務付ける。重症の患者を避けて軽症の患者だけ選んで診察するようなことがないようにする。
患者が来たときに診察の日程などを相談できるよう診療所に事務員を置くことも求める方針だ。
こうした規制緩和に加え、医療サービスの公定価格にあたる診療報酬を見直す2016年4月に、訪問診療の評価をどこまで上げて金銭的な動機を与えられるかが、普及に向けたカギを握る。
健康保険法は患者が好きな医療施設を受診できると定めている。厚労省はこの法律に基づいて、医療施設を訪れた患者を必ず診察するよう施設に義務付けてきた。
外来患者に対応するため、決まった時間に施設内で診察に応じる必要があるほか、一定の広さの診察室や医療機器の設置も義務付けている。診療時間の半分は外来対応にあてるほか、X線の設備を置くよう求める地域もあるという。
8月以降に中央社会保険医療協議会(厚労相の諮問機関)で議論し、来年4月をめどに訪問診療だけの診療所を認める通知を出す。
▼訪問診療
患者の自宅や介護施設を長期にわたって計画的に訪れて診察や治療をすること。主に寝たきりの患者や神経難病で体を動かしにくい患者、病院の待合室で長時間待てない認知症の患者らを対象にする。血圧・脈拍の測定や点滴のほか、健康相談やリハビリに対応する。1回10分あまりで、月に2、3回の訪問が多い。急病などで患者に呼ばれて医者が出向く「往診」とは区別する。検討中の専門診療所は往診にも対応する。
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