2015年7月19日日曜日

・流通資本と介護事業--イオンがデイサービス事業に参入--

 厚労省によれば、介護事業所の数は2015年4月時点で4万2000カ所を超えている。10年で2万5000カ所増えたことになる。

 厚労省は、高齢者が住み慣れた自宅で最期を迎えられるようにとう触れ込みで、必要な医療や介護サービスを提供する体制の構築を目指しており、デイサービスの需要は今後も高まる見通で、25年度には14年度比56%増の301万人がデイサービスを利用すると見込まれている。


 日本経済新聞  2015年7月19日(日)・・・きょうのことば・・・でこんなふうに評価した「デイサービス 異業種からの参入盛ん」。

▽…在宅の要介護者を施設で日中に預かる介護サービス。送迎付きで家族の負担を和らげることにもなるため人気のサービスの一つ。要介護者が料金を支払い、入浴や食事の提供などを受けられることが多いほか、レクリエーションや体操、訓練を通じて心身機能の維持・改善を目指す。開設にあたって他の介護サービスよりも必要な施設面積が小さく、人員も少なくてすむため、異業種からの参入が盛んで、フランチャイズチェーン展開も活発だ。

▽…在宅生活を支えるデイサービス施設のさらなる増設も重要な一方、「サービスの中身が伴っていない」との指摘もあり、事業者の売り上げとなる介護報酬も4月から減額された。要介護者を単に預かるだけでなく、認知症への対応力や、要介護度を改善させるといった「質の向上」も求められつつある。

 しかし、介護報酬は減額となり、大規模に有利で中小の介護事業所には不利となった。大資本による介護事業参入となると中小零細の介護事業所には大きな打撃であり、閉鎖を含む痛手をこうむることになるだろう。

 そして、流通資本の介護事業への参入には福祉とは別の目的があることを忘れてはならない。

出所:日本経済新聞 15/97/19


(以下、参考・引用)→イオン 介護参入

▽イオンが介護参入、スーパーに通所施設 20年度50カ所
 日本経済新聞 2015年7月19日(日)

 イオンは介護事業に参入する。リハビリのための運動などが日帰りでできるデイサービス(通所介護)施設を総合スーパー内に、首都圏を中心として2020年度までに50カ所設ける。近隣の高齢の顧客や家族の需要に応える。25年に首都圏で約13万人分の介護施設が不足するとの試算もある。流通大手が既存の店舗を生かしその受け皿を目指す。

 デイサービス施設はイオンの中核子会社で約350店の総合スーパーを運営するイオンリテールが直営で手掛ける。9月にも千葉県野田市にある店に広さ約200平方メートルの施設を開くのを機に本格展開し、18年度までに20~25、20年度に50施設に拡大する。

 主に開業から30年前後たった店を対象とする。開業時には周辺の住宅開発などが始まったばかりで顧客層も若かった店も、時を経て高齢者が多くなる。こうした店に施設を導入し、高齢化する顧客のニーズをすくい上げていく狙いだ。

 在宅の要介護者向けに、リハビリなどを通じた身体機能の維持・強化にほぼ特化したサービスを売り物にする。効果や安全性が検証されたトレーニングマシンを導入し、理学療法士らが専用のプログラムを用意して利用者に取り組んでもらう。

 具体的には階段の上り下りがしやすいよう太ももや腰の筋肉の強化や、猫背防止のための広背筋を鍛えるメニューなどをトレーナーの指示に沿って進める。認知機能を高めるためのゲームなども手掛ける。

 イオンは葛西店(東京・江戸川)で東京都から認可を受け、13年秋から広さ100平方メートル、定員29人のデイサービス施設を実験的に運営してきた。午前と午後に分け、食事や入浴などは手掛けずリハビリ関係にサービスを絞って提供。14年度に黒字化したため、運営ノウハウが確立できたとみて多店舗展開を進める。

 厚生労働省によるとデイサービスの利用者は200万人に迫り、市場規模は1.5兆円を超える。施設数は4月時点で4万2千カ所あり、10年で2.5倍に増えた。

 だが、首都圏ではこれを上回るペースで高齢者が増え、介護施設の不足が課題になっている。事業者もニチイ学館などの大手でも400カ所弱どまりで中小の事業者が大半を占めており、商機があると判断した。

 総合スーパー事業で苦戦するイオンは成長戦略として「大都市」と「シニア」シフトを掲げる。これまでも70歳代以上を対象にしたプライベートブランド(PB=自主企画)衣料品を提供するなど、シニア需要の取り込みを進めている。

 介護保険を使うため、デイサービスの送迎中に本人が店で買い物することは基本的にできない。ただ新たなサービスの提供で、家族を含めた顧客の囲い込みを目指す。

2015年7月17日金曜日

・<追い詰められるアベ政権>憲法違反の「安保法案」、追い詰められての衆院強行採決

 憲法違反の「安保法案」は16日午後、共産・社民、民主・維新の野党5党の議員が抗議退席する中で採決を強行。自民、公明、次世代ら多数与党の賛成で可決しました。
 
 国会での戦争法案の審議が進めば進むほどその本質がどんどん明らかになっていくという中で、法曹界、文化人、学者、自治体、各団体、市民団体などや国会周辺でも連日抗議する人びとが日に日に増え続けています。この法案が憲法に違反する戦争法案である限り、これからも増え続けて行くでしょう。

 何故、自民公明など与党だけでの採決強行なのか。NHKはじめ報道各社の世論調査でも「安保法案反対」や「徹底審議」を求める国民が増加するとともに、「内閣支持率」の低下が不支持が支持を上回るまでにその下落ぶりが顕著になってきました。そしてアベ晋三首相自らも「国民に理解されていない」と認めざるを得ないほど(それでなんで強行採決なのかは分かりませんが)、それほどアベ政権は追い詰められています。

NHKニュース 2015/07/13

 おそらくアベ宰相らは、秋には次の難問であるTPP問題も控えている。原発の再稼働も、新国立競技場建設問題も出てきてしまった。難問は山積み。このまま行けば内閣支持率は急速に低下し、退陣に追い込まれると焦燥感に駆られ、長期政権の話どころではないと考え、参院で採決できないことも念頭にいれた延長国会と衆院再可決で決められる60日間ルールの効力のある時期に採決を強行することが必要だったのでしょう。

 「時期が来れば採決する」というのは、審議が長引けば長引くほどボロが出るし、それは世論に直接影響するのであまりやりたくない、その時期が60日ルールのギリギリでもない少し余裕のある15日特別委員会採決強行のシナリオだったに違いないのです。

「まもなく採決へ」15日の衆院特別委のTV中継(NHK)
衆院本会議16日、「安保法案」、野党5党がいない中、自公ら与党の多数で可決(NHKTV)

 そして、戦後最悪である戦争法案の決定を急ぐその背景に、4月の訪米で、冷戦時代以降、覇権国家としての相対的な力が弱まった同盟国米国との公約があったからで、先送りなどしたら国内外でアベ宰相の求心力がなくなるからです。

 軍事力を減らさざるを得なくなった米国にとってみれば日本の自衛隊は喉から手が出るほど欲しい。
 財界に後押しされたアベ政権にとっては、過剰生産物のはけ口としてグローバル化した資本主義経済システム(「世界中の邦人を」)守るには核を含む軍事力の増強(同盟を含む)が必要だし、景気を回復しさらに経済成長させるには、どうしても輸出拡大は不可欠、だが実際には基幹産業である自動車輸出などは減少している、一般論ばかりではなく、原発も武器の輸出さえもいとわない、そういう基幹産業の「成長戦略」が必要なんだとでも言うのでしょう。

 こうした民意を無視して黒を白と言うまるで傲慢な態度のアベ宰相の背後霊は、祖父として自負し、尊敬する岸信介元首相です。

 アベ宰相がいつも口にし、・・・・・・くしくもこの日(15日)は、首相の尊敬する祖父、岸信介元首相が1960年、日米安保条約改定を巡る国会の混乱から退陣した日だ。首相は特別委で「あの(安保改定の)時も国民の理解はなかなか進まなかった。しかし、その後の実績をみて多くの国民から理解や支持をいただいた」。・・・・・首相に近い参院議員の一人は「消費税や年金と違い、国民生活にすぐに直接の影響がない。法案が成立すれば国民は忘れる」と言い切る(2015/07/16朝日新聞web「成立すれば国民は忘れる 強行採決の背景は」)。

 彼らの最大の誤算はこれだと思います。

(以下、参考資料引用)
▽安保法案、衆院通過 今国会での成立が確実に
 日本経済新聞  2015年7月16日(木)http://www.nikkei.com/article/DGXLASDE16H0C_W5A710C1MM0000/?dg=1

 集団的自衛権の行使容認を柱とする安全保障関連法案は16日午後の衆院本会議で自民、公明、次世代各党の賛成多数で可決され、衆院を通過した。審議継続を求める民主、維新、共産など野党5党は採決を退席した。安倍政権が最重要と位置づける同法案は9月27日までの今国会中の成立の公算が大きくなった。

野党議員が退席する中、安保法案を可決した衆院本会議(16日午後)

 安保法案は自衛隊法や武力攻撃事態法など改正10法案を束ねた「平和安全法制整備法案」と、国際紛争に対処する他国軍を後方支援するため、自衛隊の海外派遣を随時可能にする新法「国際平和支援法案」の2本立てだ。

 安倍晋三首相は16日昼の自民党代議士会で「これからも国民の理解が深まるよう努力を重ねていく」と述べ、衆院通過後の参院でも慎重な審議に努めるとした。

 本会議での採決に先立つ討論では、自民、公明両党が法案への賛成を表明し、民主、維新、共産など野党は反対を主張した。

 民主党の岡田克也代表は反対討論で「強行採決は戦後民主主義の大きな汚点になる。集団的自衛権の行使を認めるという憲法改正に匹敵するような憲法解釈の変更だ」と指摘した。野党は採決を前に退席し、採決に抗議する意思を示した。

 安全保障関連法案が衆院を通過し拍手する安倍首相(16日午後)

 5月26日に始まった審議では、集団的自衛権の行使の是非や憲法との整合性、他国軍の後方支援をどこまで認めるかなどを巡り、与野党が激しい論争を続けた。与党は一時、維新との間で法案修正も探ったが実現しなかった。7月15日には衆院平和安全法制特別委員会の審議時間は与党の目安を大きく上回る116時間に達したため、浜田靖一委員長(自民党)が質疑打ち切りを宣言、与党単独で採決に踏み切った。

 民主党の高木義明国会対策委員長は16日午前の記者会見で「(衆院では)他の法案はしばらく審議する状況や環境ではない」と反発した。

 与党は法案が参院に送付された後、60日たっても法案を議決しない場合、否決したとみなして衆院の3分の2以上の賛成で再可決できる「60日ルール」の活用も視野に入れている。安保法案が16日に衆院を通過したことで、9月14日から同ルールを適用できる。

 菅義偉官房長官は16日午前の記者会見で、参院での審議について「引き続き政府として懇切丁寧な説明をしていく」と訴えた。ただ採決を強行したとの印象がぬぐえなければ、内閣支持率の低下などにつながりかねず、今後の政権運営に影響を与える可能性もある。

2015年7月13日月曜日

・地域包括ケアと新たな「訪問専門診療所」

 厚生労働省は在宅医療に関して、地域包括ケアを進展させるために新たに「訪問専門診療所」を認める方針を検討し、診療報酬改定の年である来年の16年4月にも認可するようです。
 そこで昨年の診療報酬改定を少々ふりかえり、在宅医療への一抹の不安を感じながらも、新たな形の診療所で地域包括ケアがどうなるのかその進展に期待をしたいと思います。

 14年診療報酬改定では、同一施設などへの訪問診療が極端に引き下げられ、介護施設などでは訪問診療を引き受ける医療機関が少なくなり、医療連携が途切れて大変な事態になったのですが、一方では、新たに機能強化型の在宅療養支援診療所(在支診)であれば算定の条件を満たす、「地域包括診療料」の算定が始まりました。


厚生労働省「平成26年度診療報酬改定の概要」
 
木村徳洋氏(高崎健康福祉大学健康福祉学部医療福祉情報学科准教授)によれば、「中央社会保険医療協議会(中医協)で発表された調査結果によると、2014年度の診療報酬改定後、「訪問診療に係る収入が減った」と答えた割合は、診療所で41%、病院で40%。一方、「減っていない」と答えた割合は診療所で39%、病院で37%と、明暗が分かれる結果となりました」。


Q.2014年度診療報酬改定後、「訪問診療に係る収入が減った」という設問への解答(中医協資料から作成)

 少なくない医療機関は、診療報酬上のメリットを生かした医療活動で診療報酬引き下げによる減収を補っていることも事実のようですが、果たしてその後在宅医療への取り組みはどのようになってきたのでしょうか。

  茨城県医師会は在宅医療について昨年11月、実態調査を実施しました。在宅医療の実施状況や多職種連携の内容など10項目を聞いています。

 それによれば、会員医療機関1388のうち、535機関が回答し(回答率38・54%だった)。往診も含め、「在宅医療を実施している」と回答したのは234機関(44%)で、「実施する意向はある」も32機関(6%)だった。267機関(50%)が「実施する予定はない」と回答しており、在宅医療を行っている医療機関がほかの機関と連携しているか聞いたところ(複数回答)、訪問看護ステーション(159機関)▽ケアマネジャー(118機関)▽拠点病院(99機関)▽薬局(82機関)――と連携していたということです。(毎日新聞2015年4月16日)

 なお、同様の調査は静岡市でも行われ、「実施」医療機関は47%でした(静岡新聞7月3日)。

 茨城県の医療機関への実態調査では医療機関側はその半数が「実施する予定はない」と答えています。こうした結果は、時の政府によって繰り返され、「梯子を外される」などと批判され、いじくりまわされる「診療報酬改定」によるところが大きいと思われます。

 自由記述欄には「在宅医療の大部分は(患者の)家族などの力によることが多い。『在宅医療は自己満足に過ぎない』と思われても仕方ない」などと現行制度や実施態勢の問題点を指摘する意見もあった。同医師会の諸岡信裕副会長は「外来診療で手いっぱいという病院も多いのだろうが、普及に向けて理解を働きかけたい」(前掲、毎日新聞)と話していたとのことです。

 「医療設備」をほとんど必要としない「訪問診療専門診療所」。条件の縛りもけっこうでてくるのでしょうから、医師数が一定以上確保できるであろう病院をもつ法人などでは聴診器一本のサテライト診療所など可能性が高いと思われます。

 しかし、これは医療費削減のためのイニシャルコストもランニングコストも低い、「安上がり医療」の拡大ですから「動機不純」、診療報酬上で内容も低い水準に抑えられるとすればそれほど現場から理解されるとも思われません。

 それに診療報酬の中身に関わりますのでまだ何とも言えませんし、24時間訪問診療にふさわしいコストが保障されるならば別でしょうが、低診療報酬で行くなら開業医では困難でしょうから、病院グループ法人のためのものなのでしょうか。
 

(以下、参考資料:日本経済新聞)http://www.nikkei.com/article/DGXLASFS09H4Q_Z00C15A7MM8000/?dg=1

◆「訪問専門の診療所を解禁 厚労省、在宅医療後押し

 日本経済新聞  2015年7月10日(金)

 厚生労働省は来年4月をめどに、医師が高齢者らの自宅を定期的に訪れて診察する「訪問診療」の専門診療所を認める方針だ。外来患者に対応する診察室や医療機器がなくても開設を認める。政府は高齢者が病院ではなく自宅で治療する地域包括ケアを推し進めている。訪問診療に専念する医師を増やし、退院した患者の受け皿をつくる。



 訪問診療の患者の8割以上は「要介護」と認定された高齢者だ。外来で病院に行くことが難しい。

 訪問診療を広げる背景には、入院ベッド(病床)の不足がある。内閣官房が6月にまとめた推計によると、このまま改革をしないで放置すれば「団塊の世代」が75歳以上となる2025年には約17万床が不足する。

 症状が安定した患者は病院でなく、自宅や介護施設で治療を受けやすくする。

 入院した患者が自宅での訪問診療に移れば、医療費が減るとの見方もある。政府の試算では訪問診療にかかる自己負担と保険給付を合わせた医療費の総額は1人あたり月に約32万円で、慢性期患者の入院(約53万円)より4割安い。入院するとささいな体調不良でも治療を施すため、医療費が膨らみやすいとの指摘がある。

 厚労省は訪問専門の診療所を開く場合に、いくつかの条件を付ける方向だ。施設ごとに担当の地域を決め、住民から依頼があれば訪問することを義務付ける。重症の患者を避けて軽症の患者だけ選んで診察するようなことがないようにする。

 患者が来たときに診察の日程などを相談できるよう診療所に事務員を置くことも求める方針だ。

 こうした規制緩和に加え、医療サービスの公定価格にあたる診療報酬を見直す2016年4月に、訪問診療の評価をどこまで上げて金銭的な動機を与えられるかが、普及に向けたカギを握る。

 健康保険法は患者が好きな医療施設を受診できると定めている。厚労省はこの法律に基づいて、医療施設を訪れた患者を必ず診察するよう施設に義務付けてきた。

 外来患者に対応するため、決まった時間に施設内で診察に応じる必要があるほか、一定の広さの診察室や医療機器の設置も義務付けている。診療時間の半分は外来対応にあてるほか、X線の設備を置くよう求める地域もあるという。

 8月以降に中央社会保険医療協議会(厚労相の諮問機関)で議論し、来年4月をめどに訪問診療だけの診療所を認める通知を出す。

 ▼訪問診療
 患者の自宅や介護施設を長期にわたって計画的に訪れて診察や治療をすること。主に寝たきりの患者や神経難病で体を動かしにくい患者、病院の待合室で長時間待てない認知症の患者らを対象にする。血圧・脈拍の測定や点滴のほか、健康相談やリハビリに対応する。1回10分あまりで、月に2、3回の訪問が多い。急病などで患者に呼ばれて医者が出向く「往診」とは区別する。検討中の専門診療所は往診にも対応する。

2015年7月11日土曜日

・アベ政権の骨太方針と社会保障のゆくえ

 アベ政権は六月三〇日夕、臨時閣議で経済財政運営の基本方針(骨太の方針)と成長戦略、規制改革実施計画をそれぞれ決定しました。

(図)日本経済新聞15/07/01

◇社会保障費の削減が最大のターゲット

 日本の国の財政における借金(債務残高)は1053兆円(国民一人当たり830万円 3月末)。財務省のホームページ・「債務残高の国際比較」によれば、GDP比で233.8%とイタリアの149.2%を大幅に上回り、主要先進七か国(日・米・英・独・仏・伊・加)の間でも突出してトップで、この限りでいつ破綻してもおかしくない状態です。

 こうした歴代自民党政権によってつくられた無責任財政の現状を改革し、「財政健全化」目標(基礎的財政収支の黒字化)を2020年度に達成するための「経済・財政再生計画」を盛り込んだのが「骨太方針」といわれるものです。 

 しかし、この内容は、まず消費増税10%、「その円滑な実施」の他、社会保障費を最大のターゲットとしてその徹底的な削減を目指したものです。

 国民生活を犠牲にした「財政健全化」などあり得ません。一方では、法人税の限りない減税、原発再稼働の推進、そして軍事費の拡大には惜しみなく税金を使い、大企業の収益を増やす方針となっています。

◇消費増税10%を確実に実行し、法人税は限りなく引き下げ

 骨太の方針は、16~18年度を「集中改革期間」に指定しいます。この3年間で社会保障費の自然増を1兆5千億円に抑える「姿勢」を明記しました。「目安」として具体的な削減額は明記できなかったのですが、3年間で9千億~1兆5千億円、1年当たり3千億~5千億円も削るもので、小泉純一郎政権の年2200億円削減を大きく上回る社会保障費切り捨てとなりますからその規模の大きさが想像できます。
(図)日本経済新聞2015/07/01

 「目安」として削減額には幅を持たせた意味は、数値目標を立てて達成できなかったことを考え、その批判を避けため、すなわち「長期政権」を狙ったものと言われています。

 消費税増税10%は「経済環境を整え」て17年4月に「円滑に実施」し、国の歳出全体については3年間で1兆6千億円の伸びを「目安」とし、経済・物価状況に応じて歳出を拡大する。法人税減税ついては「早期に完了する」と強調し、新成長戦略には、16年度に法人税の「引き下げ幅のさらなる上乗せ」を図るとしています。

(表)日本経済新聞2015/07/01
◇高齢化社会と社会保障


(図)将来推計人口でみる50年後の日本/平成24年版高齢社会白書(全体版) - 内閣府(HP)

<2.5人に1人が65歳以上、4人に1人が75歳以上>

 「高齢者人口は今後、いわゆる「団塊の世代」(1947~1949年に生まれた人)が65歳以上となる2015年には3,395万人となり、「団塊の世代」が75歳以上となる2025年には3,657万人に達すると見込まれています。その後も高齢者人口は増加を続け、2042年に3,878万人でピークを迎え、その後は減少に転じる」(内閣府「将来推計人口でみる50年後の日本/平成24年版高齢社会白書(全体版)」)と推計されています。

 これは団塊ジュニア世代の高齢化などを含んで2042年までの27年間は、必然的に高齢化に伴う医療費が増え続けるということであり、逆に言えばこの団塊世代が75歳以上になる2025年までにその後に至っても「維持できる社会保障制度」に「改革」すれば何とかなるということにほかなりません。

<社会保障費削減が生みだしたもの>

 メディアも含めて、こうした立場を主張する人びとは「税制一体改革」→「社会保障改革」→「社会保障費をもっと削れ」といってるわけですが、これまでもこうした施策にさまざまな社会的要因が絡まり、生活保護受給世帯の増加にとどまらず、子どもの無国籍者という究極の結果をはじめ、新幹線車両での焼身自殺のように、行どころがなくなった高齢者の孤独死や自殺などなど社会問題や罪深い矛盾を増加させてきました。

 世界的にもギリシャ危機という巨大な経済圏域を揺るがすようなことも起きています。ギリシャ国民は「消費増税・社会保障費削減」などのEUから押し付けられる「緊縮策」にがマンができなくなり、

「国民投票で欧州連合(EU)の緊縮政策に「ノー」を突きつけた。チプラス政権はEUとの再交渉をめざすが、この危険な賭けでギリシャはさらなるいばらの道を歩むことになる。ギリシャ債務危機は日本に大きな教訓を与えている」。・・・・・・・日本経済新聞の「大機小機」(07/07付)にこんな文句ではじまる投稿がありました。

 ・・・・・もう少し続けましょう。・・・・・・

 「日本の財政はギリシャより深刻な状況にある。長期債務残高の国内総生産(GDP)比はギリシャがユーロ圏最悪の1.8倍なのに対して、日本は先進国最悪の2倍超である。ギリシャは基礎的財政収支の黒字化を実現しているのに対し、日本は2020年度の黒字化すら危ぶまれている」。

 「日本には少子高齢化による「2025年問題」が横たわる。この年を境に団塊の世代が75歳以上になる。貯蓄率は低下し、個人金融資産は減少し、債務を国内では賄えなくなる。財政への信認が揺らげば資金逃避が起き、悪い円安につながる。金利上昇が財政をさらに圧迫する。
 しかし、安倍晋三政権は社会保障制度改革を柱とする財政再建に真剣に取り組もうとはしていない」。
 「ギリシャ危機は対岸の火事ではない」。

 (投稿者=無垢)・・・・・・というのです。

 このように書くと、まるであたかも「社会保障費削減の行方はギリシャ」と思われてしまいそうですが、この投稿をした人は「社会保障費を徹底して削らないとギリシャになる」という立場の人です。

 日本でほんとうにそうなのでしょうか。
 私は真逆の立場ですからこの文脈のままでいいと思います。高齢者が増え、医療・介護費をはじめ社会保障費が増加するのは必然で、年金機構の情報漏えいなどをみれば一定の効率化は必要ですが、増加は仕方ないという面があるはずです。

 それを前提にした税制改革が必要です。このままでは「経済格差」はますます拡大しますので消費増税・法人減税は逆さまです。

 ギリシャ危機でフランスのトマ・ピケティ教授ら著名経済学者たちが、ドイツのメルケル首相に対する公開書簡で、財政問題を抱えるギリシャにドイツなどの主導で課している緊縮策を見直すよう求めています。

 ピケティ教授らは、EU側の要求は、ギリシャで「大量失業と金融システムの崩壊を招き、債務危機を深刻化させた」と分析。税収が激減し、企業は資本が不足、若者の失業率は50%近くに上ると指摘し、緊縮策は「1929~33年の大恐慌以来見なかったような影響をもたらしている」として、現状は「ギリシャ政府に対し、自らこめかみに拳銃を突きつけて、発砲するように求めているようなものだ」とメルケルドイツ首相らの政策を批判しました。(以上、日本経済新聞7月9日)

◇財政再建と経済成長の二兎を追う~二兎を追うものは一兎も得ず

骨太の方針決定 財政再建、成長重視で  歳出抑制「目安」どまり、18年度赤字幅GDPの1%に
(日本経済新聞 2015/07/01)
  アベ政権はこれで「財政再建&経済成長」の二兎を追うのだそうですが、ふりかえってみれば20世紀から21世紀への転換期、世界の先進国が同様に「歴史の峠」に訪れる財政危機に悩まされました。

 その大不況の下で、「景気回復と財政再建」政策に関連した三つの政策パターンとして、景気回復の一兎しか追わなかった日本、財政再建の一兎しか追わかったドイツ・フランス、両方の二兎を追ったスウェーデンがあったとする、「二兎を得る経済学 景気回復と財政再建」(神野直彦著、2001年、講談社。当時東京都税制調査会会長で東大大学院経済学研究科教授)にとても興味深いことが分析され、提起されています。

 しかし、今回のアベ政権の「財政再建と経済成長の二兎を追う骨太方針と成長戦略」とは残念ながらスケールの差を感じざるを得ません。「景気回復」ではなく成長戦略ですからこの言い回しからすればすでに景気回復の過程は終わったということでしょうか。

*以下引用  -----------

 とりもなおさず、景気回復という一兎しか追わなかった日本は、財政破綻はもちろん、景気回復も破綻し、何も結果を残せなかった。それは企業の国際競争力強化を最優先政策課題として企業の租税負担を低めることに全力を傾けたこと。日本は一貫して企業の租税負担あるいは社会保障負担の軽減を追求したことにある。

 少なくとも財政再建という一兎を得た国はドイツとフランス。しかし、この二つの国も社会保障改革ではゼネストを含む労働組合と国民の激しい抵抗にあい政情不安定の状況に至ってしまい、一兎しか追わなかった代償は大きく、失業率は悪化してしまう。二つの国とも政権交代という政治的代償も払うことになる。

 二兎を追って二兎とも手に入れたスウェーデンはスウェーデンモデルを復権させたこと、スウェーデンは福祉国家であり、所得再配分国家なのである。政治システムが社会保険と生活保護の社会的セーフティネットとともに新しい産業構造の前提条件を整備する社会的インフラストラクチュアを整備する。この時に必要になってくるのが新たな租税負担であり、国民が「共同の困難」としてどう財政再建に取り組むのか、それを国民に提起しなければならない。

 紆余曲折の政権交代をして、1994年に政権復帰した社民労働党は「ストロング・ウェルフェア(強い福祉)」のために「ストロング・ファイナンス(強い財政)」を築こうを合言葉に国民に説明したのである。こうして、たとえば1995年に高額所得者の所得税税率を20%から25%に引き上げる。

 日本ではこうした経費削減と増税は必ず不況を深刻化させるという批判が巻き起こるが、スウェーデンではこうした財政再建に取り組み、景気回復のために経費の中身を大きく転換させたのである。

 消費税で財政再建はできるか。
 「二兎を追う」とは二つのネット(前記)を財政を通じて張るために、財政再建を達成しなければならないということを意味する。

 現在の長期不況のもとで、増税はいっそう不況を深刻化させる。しかも、仮に景気が回復しても、気の遠くなるような消費増税を実施しなければならない。

 不況の下では税収は減少し、景気が良くなれば逆に法人税や所得税では税収は高い累進税率によって自動的に増税となり自然増収となる。

 不況の下で減税するのであれば、消費税を減税し、消費需要を増加させつつ、回復に向けた増税基調の改革をすべきである。ところが愚かにも、日本はまったく逆の税制改革を実施してしまった。つまり不況の下では自動的に減税となる所得税や法人税を、大幅に減税してしまったのである。

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 この著書に書かれたこれらの出来事は20年以上も前の話しであり、現在までの空間がいわゆる「失われた20年」になるわけです。財政再建も景気回復にも失敗した自民党政権。しかし、アベ政権はこの20年の総括もなく、社会的セーフティネットと社会的インフラストレクチュアのつのネットの整備どころか、財界からの支援に支えられ社会的セーフティネットを破壊することのみに全力をあげる構えです。これでこ国民に我慢と増税を、と言われてもとても容認できるものではありません。

(資料:骨太方針と成長戦略)

◆成長戦略・骨太の方針(要旨)
(行政・政治) 2015年7月1日(水) 配信:朝日新聞(出所:m3.com)

 ▽成長戦略(要旨)

【総論】

・日本経済は、かつての強さを取り戻しつつある。
・しかし人口減社会の到来によって、消費だけが拡大しても経済全体の生産性が拡大しなければ、成長の限界にぶつかってしまう。
・アベノミクスは需要不足の解消に重きを置いてきたステージから、供給制約の対策を講ずる新たな「第二ステージ」に入った。

【日本産業再興プラン】

・コーポレートガバナンスを強化する。
・サービス産業の労働生産性の伸び率を、2020年までに2・0%とする。
・ベンチャー支援人材を選抜し、今年秋ごろに米シリコンバレーに派遣する。
・ベンチャー関連施策の工程表となる「ベンチャー・チャレンジ2020」を今年末までに策定する。
・IoT、ビッグデータ、人工知能の技術革新を踏まえた課題解決を進める「CPS推進協議会(仮称)」を年内に創設する。
・小型無人機について、国家戦略特区を活用した近未来技術実証を行うための制度改革を検討する。
・朝型勤務などを推進する「夏の生活スタイル変革(ゆう活)」を今夏から国民運動として展開する。
・自分が身につけるべき知識や能力などを確認する「セルフ・キャリアドック(仮称)」を整備する。
・実践的な職業教育を行う新たな高等教育機関を制度化し、19年度に開学する。
・17年度末までに46・3万人の保育所勤務保育士を確保する。
・女性が輝く上で避けて通れないトイレの質の向上に向けた機運を醸成する。
・20年に、外国人IT人材を6万人に倍増する。
・「特定研究大学(仮称)」、「卓越大学院(仮称)」制度を創設する。
・「サイバーセキュリティ経営ガイドライン」を今年度中に策定する。
・マイナンバーの利活用範囲を戸籍やパスポート、証券分野などへ拡大する。
・現在進めている法人税改革を早期に完了する。

【戦略市場創造プラン】

・全国の400床以上の一般病院で、電子カルテの普及率を90%に引き上げる。
・ヘルスケアビジネスを加速化させるプログラム提供や人材供給を整備する。
・遊休農地への課税の強化などの仕組みを検討する。
・20年の農林水産物・食品の輸出額1兆円目標を前倒しして実現する。
・外国人観光客による旅行消費額4兆円を目指す。

【国際展開戦略】

・アジア開発銀行と連携し、今後5年間で約1100億ドルの「質の高いインフラ投資」を行う。

 ▽骨太の方針(要旨)

【現下の日本経済の課題と基本的方向性】
・我が国経済は、1990年代初頭のバブル崩壊後、およそ四半世紀ぶりの良好な状況を達成しつつある。
・中長期的に、実質GDP成長率2%程度、名目GDP成長率3%程度を上回る経済成長の実現を目指す。
・復興事業は、被災自治体も一定の負担を行う。

【経済の好循環の拡大と中長期の発展に向けた重点課題】

・原子力規制委員会により世界で最も厳しい水準の規制基準に適合すると認められた場合には、その判断を尊重し再稼働を進める。
・女性が働きやすい制度などへの見直しに向けて具体化・検討を進める。
・増加する空き家への対応も含め、東京圏の医療介護・住まいの整備について取り組みを進め、地方への移住を希望する人を支援する。

【「経済・財政一体改革」の取り組み――「経済・財政再生計画」】

・「経済再生なくして財政健全化なし」が、安倍内閣の基本哲学。
・低所得若年層・子育て世代の活力維持と格差の固定化防止のための見直し、働き方・稼ぎ方への中立性・公平性の確保、世代間・世代内の公平の確保など、税制の構造的な見直しをできるだけ早期に行う。
・中間時点(18年度)で、目標に向けた進捗(しんちょく)状況を評価する。18年度の国と地方を合わせた基礎的財政収支の赤字は対GDP比1%程度を目安とする。
・国の一般歳出は安倍内閣のこれまでの取り組みを基調として、社会保障の高齢化による増加分を除き、人口減少や賃金・物価動向などを踏まえつつ、増加を前提とせず歳出改革に取り組む。
・17年4月の消費税率10%への引き上げに向け、その円滑な実施に必要となる経済環境を整えるため、必要に応じ機動的に対応する。
・20年度に向けて、社会保障関係費の伸びを、高齢化による増加分と消費税率引き上げとあわせて行う充実分などに相当する水準におさめることを目指す。
・都道府県別の1人あたり医療費の差を半減させることを目指す。
・後発医薬品にかかわる数量シェアの目標値は、17年央に70%以上とするとともに、18年度から20年度末までの間のなるべく早い時期に80%以上とする。
・21年度までをめどに、国において政府情報システムのクラウド化と運用コスト低減(3割減)を目指す。

【16年度予算編成に向けた基本的考え方】

・専門調査会において改革の進捗(しんちょく)状況を適切に管理、点検、評価する。