しかし、その優れた医療システムのアクセスの良さは、健康保険被保険者本人が自己負担ゼロから一部負担200円となり、そして今日にいたっては3割負担となり、だんだん医者に行きづらくなってきた。
グローバリゼーション経済の競争下で、日本資本主義は急速な資本蓄積にまい進してきた。大企業の国際競争力のためのコスト削減などが激しくなり、今では大企業が史上最高の利益を出し、日本でも役員報酬1億円は当たり前のようになった。とくに外国人の日本法人役員報酬は高額ですねぇ~。
一方で、生活保護受給者が史上最高205万495人となった。これまでの最高は1951年、戦後の混乱期の204万6,646人で、60年ぶりに更新されました(7月集計)。生活保護法は1950年に制定されたものです(念のため)。しかも就労年齢層が増加していることで、その世帯を含む「その他の世帯」が2倍に激増した。
と言っているうちに厚労省が、9月末の生活保護受給者を発表。それによると受給者は206万5896人となり7月の過去最高から三か月連続で過去最高を更新した。受給世帯も前月から4099世帯増えて149万7329世帯となり過去最多を更新した。
この間の大企業のコストダウンが如何に激しいものであったかはかり知れない。同時に、これでは病人が病気になれない。つまり病気になっても医者にかかれない状況が99%の国民を襲っているというわけだ。
この国の経済は、最悪と言いながらも実は、GDPはこの前中国に抜かれるまでは世界第二位の実力国である。これがどうしても割り切れない問題なのである。
また、医師不足、看護師不足が、「医療崩壊」と言われるほど医療現場は厳しくなっている。当直勤務が終わった翌日に、また手術でメスを握らなければならない外科医、高度細密な技術を要求される産科や小児科、そこで頻発する訴訟。「いのちは地球よりも重い」はずが、求められる最高の技術と労働に対する診療報酬は不当なまでに低額に抑えられているというのが現状だ。
こうした展開は、2001年に登場した小泉首相(~2006年秋)の「構造改革」が大きな役割を果たした。小泉首相が衝撃的なデビューであったこともあり、多くの国民はこれに期待をもたされてしまった。街頭などで「小泉構造改革」を批判すれば、女子高校生までが「小泉ばっかり批判するな!」と罵声を浴びせるほどいつのまにか小泉氏は「人気者」になっていた。それはまるで阪神ファンばっかりの甲子園での阪神VS巨人戦。そこで阪神を罵倒するという感じの、周りは異様な雰囲気なのである。
この状況はいままた、大阪の知事市長選挙で、自ら「独裁者」と名乗る橋下氏をリーダーとする「維新の会」の台頭と、松井知事と橋下大阪市長が誕生。今度は国会に向かっている。こうした状況はナチス・ヒットラーが地方から出てついには中央を突破し、暗黒の独裁政権を確立した状況に酷似しているとさえ言われている。このように「国民的な閉塞感」が漂う情勢下で、それを何とか打破したいという多数の国民の願いを、良識的な民主的な政治変革の方向に進めることが、今こそ求められてるに違いない。
さて、今でも厳しすぎる医療の現状の下で、TPPによって医療が「崩壊」をくい止め良い方向に向かうのかどうかを医療の現場から探っていきたいと思うのであるが、もうすでに明らかなように、TPPで良い方向に向かうなんてことは考えられないのだ。
政府は医療保険制度は枠外だというが、それはTPPの24の分野に「医療」というワーキング・グループがないからにほかならない。
しかし、アメリカは日本のあらゆる市場で、例外なく市場の開放を求めている。医療サービスもそうだが、2004年にアメリカは、①医療サービスへの営利法人の参入機会の拡大、②PETなど高度な医療機器による外部委託の容認、③保険診療と保険外診療を明確に分けることと、混合診療の解禁を求めている。
実は、これらの一部は、すでに小泉政権下で実現されている。小泉政権が二度も、過去にない診療報酬の引き下げをやっただけでなく、2004年に「構造改革特区」という形で、高度な保険外診療を行う株式会社医療機関を解禁、2006年に再生医療の美容クリニックが開業された。混合診療は高度先進医療限定だが、「保険外併用療養費制度」という、部分的に混合診療が解禁されたのである。こうした意味で小泉構造改革が大きな突破口を開いたことになる。
言うまでもなく、この程度に収まったのは、医師会はじめ厚労省が反対に回って頑張ったことがあるが、何よりも医療機関やその諸団体の国民的な運動によるものであった。おそらくTPPでは、さらなる「解放」の段階を迫られることになることは間違いない。
関岡英之氏は、著書「国家の存亡~『平成の開国』が日本を滅ぼす」(PHP新書)の中で「日本の医療は、『医師不足』『医療崩壊』といわれる惨状に喘いでいる。・・・これは『構造改革』の名の下に断行された、過酷な医療費削減という失政がもたらした人災である。小泉政権下での二度にわたる診療報酬の前例のない引き下げは、医療従事者と患者の双方を激甚に痛めつけた」。としてさらなる医療と農業の破壊が・・・・・、少なくともこの二つは、外資を含む資本の論理と市場原理の導入をめざしたTPPのターゲットであるという。
さらに氏は東日本大震災で、「黒々とした濁流に呑み込まれていく美しい田園と孤立した病院の屋上で助けを求める白衣の人びとの姿は、日本の行く末に警告を発する、声無き悲痛な叫びなのである」。と述べている。